津軽海峡縦断泳ってなに?
一般的に津軽海峡 (本州~北海道間) を泳いで渡ることを指します。
海峡横断泳といえば、かなり前にテレビ番組の企画で、芸能人6人がドーバー海峡のリレー横断に成功して話題になりました。記憶に残っている方もいらっしゃると思います。
この海峡横断泳、英語では「Channel Swim」と呼ばれていて、海峡横断泳に挑戦するスイマーは「Channel Swimmer」と呼ばれます。
Channel Swim の中でも「Oceans Seven」という、地球上で特に成功が難しいとされている7つの海峡があり、先の「ドーバー海峡」はもちろん、「津軽海峡」もその7つの中に含まれます。
演歌などでお馴染みの津軽海峡が、こんなところで有名なのって少し意外ですよね。
Oceans Seven 1.カタリナ海峡 (33.7km / アメリカ:サンタカタリーナ島~ロスアンゼルス間) 2.アイリッシュ海峡 (33.7km / アイルランド~スコットランド間) 3.クック海峡 (26km / ニュージーランド北島~南島間) 4.カウワイ(モロカイ)海峡 (41.8km / ハワイモロカイ島~オアフ間) 5.ドーバー海峡 (34km / イギリス~フランス間) 6.ジブラルタル海峡 (14.4km / スペイン~モロッコ間) 7.津軽海峡 (30km / 本州~北海道間) ※オーシャンナビHPより抜粋 "https://ocean-navi.com/channel01/"
「Oceans Seven」の中でも「津軽海峡」は、下記の理由から特に難関とされているそうです。
・流れのスピードが速い 日本海側で対馬海流とリマン海流がちょうどぶつかり合いながら津軽海峡へ一気に流れ込みます。 流れる方向は常に日本海側から太平洋へ向かって流れています。そのスピードは時間帯によっては約4ノット(時速約7km前後)に達することも。 人間の力ではほぼ逆らって泳ぐことはできません。 ・流れが複雑 津軽海峡ではたくさんの岬が張り出していることで流れが複雑になります。 また岬の突端などでは巻潮が発生し、思う方向へ進めないこともよくあること。さらに岬と岬が近いところほど流れるスピードが早くなります。 ・波とうねり 西の風が強くなると津軽海峡では崩れた波が発生し、東の風が吹くと波が大きくなります。 さらに複雑な潮の流れがぶつかり合い、潮目が発生し、オープンウォータースイミングレースなどでは考えられないような三角波がたつこともあります。 ・水温の変化 青森側をスタートするときは24度あった水温が北海道側に近づくにつれて14度まで下がった例が実際にあるほど水温の変化がかなり激しいです。 水温の変化が体にあたえる影響は大きく、著しく体力が奪われ10時間以上かけてやっとここまで来たのにあと数キロの地点でリタイアということもあります。 ・精神的ダメージ 陸が近くに見えているのになかなか近づけない、また泳いで行きたい方向と船首の向いている方向が異なる、など津軽海峡の流れをしっかりと頭の中で理解できていないとすぐに気力を失ってしまいます。 ※オーシャンナビHPより抜粋 "https://ocean-navi.com/channel01/"
ところで、津軽海峡を泳いで渡る場合、「津軽海峡”横”断泳」と「津軽海峡”縦”断泳」のどちらが正しいのでしょうか?各所で呼び方は異なりますが、ここでは「津軽海峡”縦”断泳」と呼ぶことにします。
挑戦するには?
津軽海峡は公海という扱いですので、縦断泳をする場合、海上保安庁への申請やサポート船の手配など、様々な手続きが必要になるそうです。
そのため、一般的には海峡泳のサポートをしている会社を探して申し込むことになると思います。
有名なのは 株式会社オーシャンナビ (https://ocean-navi.com/channel01/) です。
[2024/2/21 追記]
2023年も多くのChannel Swimmer達が津軽海峡縦断泳に挑戦しましたが、潮流や天候に恵まれず、残念ながら完泳者は「0(ゼロ)」だったそうです。
これを受けて、2024年以降の受け入れ方針についてオーシャンナビからアナウンスがでています。今後、特に日本国外の方にとっては、挑戦することが厳しくなりそうです。
(English follows)
2008年以来、私たちは津軽海峡横断泳のサポートを行って参りました。この16年の間に、延べ142名/組のスイマーを迎え、73名/組の完泳の場に立ち会うことができました。世界トップクラスのマラソンスイマーたちとの出会いは、私たちにとって大きなインスピレーションであり、それを支える立場にいられることは誇りでした。
しかし、今年は潮の状況、および出航時の天候に恵まれず、1組も完泳に至ることができませんでした。今年は日本の新型コロナ感染症に関する渡航規制が完全に撤廃されてから初めてのシーズンでありましたが、最終的にこのような結果となり、泳者のみなさまの気持ちを思うと心が痛みます。私たちも、船長たちも大変落胆しております。
このような状況下で、国際的なマラソンスイマーのコミュニティーからは多くの不満が噴出し、コストとオペレーションの面で改善を求める声が上がっていることも認識しております。しかし、現状でできる最善の努力をしてきた結果のことであり、私たちとしては、これ以上の改善をお約束することができません。
津軽海峡は風と潮の強い海峡です。その威力は人間の力を遥かに超える場合もあり、その状況では私たちは無力です。また、近年、海の状況が急変しており、地元の漁師の話によると、近年、特に今年は潮が発生する時間帯やエリア、またその強さなどを予測することが非常に困難になってきているということです。
また、中露の軍艦や大型貨物船も通過する国際海峡であることから、海上保安部との連携は必須です。近年の国際関係や昨年起きた北海道沖での観光船の死亡事故によって、海上保安部からの安全に対する要請はより強くなっており、その意向に反した形での遂行は私たちとしてはできかねます。
このような状況を鑑みて、私たちとしては、国際スイマーに対し積極的な受け入れは今後難しいとの結論に至りました。すでにお申し込みいただいている方々、また、現在ウェイティングリストに載っている方々に対しては、個別にご連絡差し上げます。
Since 2008, we have supported the Tsugaru Strait Crossing Swim. Over the past 16 years, we have welcomed a total of 142 swimmers/groups and have been present at the completion of 73 swims. Meeting these world-class marathon swimmers has been a great inspiration to us, and we have been proud to be in a position to support them.
This year, however, due to the tidal conditions and unfavorable weather at the time of start, not a single attempt was able to complete the swim. This was the first season since Japan’s COVID travel restrictions were completely lifted, and our hearts go out to all the swimmers who had to suffer through such an unfortunate outcome. We and our captains are very disappointed as well.
We are aware that some voices within the international marathon swimmer community have expressed a great deal of dissatisfaction with the situation and have called for improvements in terms of costs and operations. However, we have done the best we can under the current circumstances, and we cannot promise any further improvements.
The Tsugaru Strait is a challenging strait with strong winds and currents. Their force can be far beyond human ability, and we are powerless in such circumstances. In addition, the sea conditions have been changing rapidly in recent years, and according to local fishermen, it has become very difficult in recent years, especially this year, to predict the time of day and area where the currents will occur, as well as their strength.
In addition, since this is an international strait through which Chinese and Russian warships and large cargo ships also pass, cooperation with the Coast Guard is essential. Recent international relations and last year’s fatal accident off the coast of Hokkaido involving a sightseeing vessel have made the Coast Guard’s demands for safety even stronger, and we are not able to carry out our work against their directions.
In light of this situation, we have come to the conclusion that it will be difficult for us to actively accept international swimmers in the future. Those who have already applied and those who are currently on the waiting list will be contacted individually.
2023/07/31
https://ocean-navi.com/channel-swimming-support/
どこを泳ぐの?
ほとんどの場合、青森県の小泊岬(権現岬)からスタートして、北海道の白神岬を目指します。
地図だけ見ると、最短距離をとれる竜飛岬からスタートしたほうが良さそうに思えますがこれには理由があります。
スタートが竜飛岬ではなく、小泊岬とされている主な理由は潮流です。
津軽海峡の潮は、常に西(日本海側)から東(太平洋側)へ流れています。そして、陸地の間が狭くなるほど潮の流れは強くなります。
そのため、竜飛岬からスタートして最短距離をとったつもりでも、途中で強い潮に流されてしまい北海道に辿りつくこと自体が困難になります。
また、潮の強さは時間によって変わります。潮流は、基本的には夜に弱く、日中に強くなります。
同じ日(2022/06/11)を例にとると、夜 02:00 は青い部分(2kn未満)のみですが
日中 11:10 になると緑の部分(2kn以上)が増えてきます。(2knを超えるとエリートスイマーでも流されるレベルです)
コースやスタート時間を決めるにあたり、これらの潮流を考慮することがとても重要になってきます。(※決めるのはサポート船の船長さん達です)
ほとんどの場合、潮の弱い夜~明け方にスタートし、まず北西に向かう進路を取ります。(この潮の弱い時間帯にどれだけ距離を稼げるかがポイントになってきます)
その後、潮が強くなり始める真ん中あたりから東(太平洋側)に流されつつゴール、というS字に近いコース取りがされることが多いです。
※逆方向(北海道をスタートして青森県を目指す)での縦断泳も過去に実施されていたようですが、海のコンディションが悪化する可能性が高く、現在は実施されていないようです。
何kmくらい泳ぐの?
小泊岬~白神岬間は、直線距離で約30kmです。
潮に恵まれれば、ほぼ直線で結んだコースをとれますので泳ぐ距離は約30kmとなります。
ただ先述の通り、潮の流れを考慮してS字のコースをとることがほとんどです。その場合、泳ぐ距離は約33~35kmほど。白神岬に到達する前に東へ流された場合は約47kmに達したこともあるようです。
こちらは2016に挑戦した方々のコースと到達タイムです。
ほぼ同じコースを泳いだ場合でも、タイムに3~4時間ほどの差があるのがわかります。
単独泳とチーム泳の違いや個々の泳力の違いはもちろんですが、潮や波などの海況がタイムに大きく影響してくると思われます。
いつ、何時間くらい泳ぐの?
オーシャンナビにサポートをお願いする場合、年によって実施月が変わるようです。以前は7月・8月・9月に募集していましたが、2021年は7月のみ、2022年も7月のみの募集となっているようです。
「スロット」といって、サポート船とオブザーバーが確保できている日を何パターンか提示され、その中から希望のスロットを選ぶ形になります。
スタート時間は海況によって変わります。(スタートの前日に、船長とオブザーバーとの打ち合わせで決定)
早いと日が変わる前の22時頃にスタート、遅くても明け方4時頃のスタートすることが多いようです。
(2022年時点、基本的に朝4時頃スタートになったそうです)
何時間くらい泳ぐかについては、海況や泳力により大きく変わりますので一概には言えませんが、過去の記録をみると早くて8時間台、長くて13時間台くらいになるようです。
制限時間は10時間が目安となっています。それ以降の続行判断は船長とオブザーバーにより決定されます。(2022年時点では、続行可能と判断された場合であっても、延長できるのは最長4時間までのようです。)
また、10時間経過後は1時間ごとに数万円の追加料金が発生します。もし10時間を超えた時に追加料金を支払ってでも続行するか、事前にチーム内で認識あわせをしておいたほうが良いです。
何人で泳ぐの?
一人で青森県~北海道を泳ぎ切る「ソロ(単独泳)」と、最大6名のチームで交代しながら泳ぐ「リレー(チーム泳)」があります。(他にも二人で一緒に青森県~北海道を泳ぎ切る「デュオ」があります)
ソロの場合でもリレーの場合でも、船の定員は8名となります。うち2名は船長とオブザーバーですので、泳者とサポートクルーは残り6名の中で収まるようにします。
リレーの場合、泳ぐ順番や交代のタイミングはチームに委ねられます。ただし状況により、船長やオブザーバーが指示する場合もあります。
どんな格好で泳ぐの?
水着のみ、もしくはウェットスーツを着用して泳ぎます。海外の方は水着のみ、日本国内の方はウェットスーツを着用する率が高いようです。
Channel Swimming Association のレギュレーションで着用可能なものについて厳しく規定されているため、Oceans Seven の海峡泳成功の認定をもらいたい場合は水着で泳ぐ必要があるようです。
Costume’ A Standard Swim Costume’
https://www.channelswimmingassociation.com/swim-advice/regulations
(for both sexes) shall be of a material not offering Thermal Protection or Buoyancy and shall be Sleeveless and Legless : “”Sleeveless”” shall mean the Costume must not extend beyond the end of the shoulder onto the Upper Arm; “”Legless”” shall mean that the costume may not extend on to the Upper Leg below the level of the crotch. We do not cater for wetsuit swimmers unless under medical or religious grounds. These swims are discussed prior to the swim by our Board of Directors and a decision made. Please contact us for more information on this.
津軽海峡の水温は14℃まで下がることがあるそうです。一般的な水風呂が約17℃ですので、水着で挑戦する場合は寒さ対策も考える必要があります。
気になる成功率は?
津軽海峡縦断泳の成功率はどれくらいなのでしょうか?
まずはDNS (スタートできなかった場合) も含めて見てみます。
実際に津軽まで出向いた Channel Swimmer が完泳できる確率はどれくらいなのでしょうか?
全体 | ソロ | リレー | デュオ | |
挑戦数 | 112 | 78 | 31 | 3 |
DNS (荒天のためスタートできず) | 14 | 10 | 4 | 0 |
DNF (途中リタイヤ) | 35 | 28 | 5 | 2 |
完泳数 | 63 | 40 | 22 | 1 |
完泳率 (完泳数 / 挑戦者数) | 56% | 51% | 71% | 33% |
全体の完泳率は「56%」という結果になりました。津軽まで出向いても、ほぼ2組に1組しか完泳できない難しいチャレンジということがわかります。
次に上記の表から、DNS率を抜き出して見てみます。
これは、津軽まで出向いたものの海況などに恵まれずスタートできなかった組の割合です。
全体 | ソロ | リレー | デュオ | |
挑戦者数 | 112 | 78 | 31 | 3 |
DNS (荒天のためスタートできず) | 14 | 10 | 4 | 0 |
DNS率 (DNS / 挑戦者数) | 13% | 13% | 13% | 0% |
全体のDNS率は「13%」でした。10組に1組強はスタートすらできないことになります。津軽海峡がいかに厳しい海かがわかります。
そしてDNS 14組のうち10組は海外からの挑戦者でした。はるばる津軽まで来られたのにDNSを告げられた時はさぞかし無念だったと思います。
最後に、スタートできた場合の完泳率を見てみます。
全体 | ソロ | リレー | デュオ | |
スタート数 | 98 | 68 | 27 | 3 |
DNF (途中リタイヤ) | 35 | 28 | 5 | 2 |
完泳数 | 63 | 40 | 22 | 1 |
完泳率 (完泳数 / スタート数) | 64% | 59% | 81% | 33% |
全体の完泳率は「64%」でしたが、ソロの完泳率は「59%」、リレーの完泳率は「81%」と差がつきました。人数が多いほうが完泳率は上がることがわかります。
ざっくりまとめますと、もし「100組」が津軽海峡縦断泳に挑戦した場合、「13組」は荒天でスタートすらできない。残りの「87組」のうち成功するのは「56組」のみ、ということになります。
気になる費用は?
2022年6月現在のオーシャンナビの資料(参考 https://ocean-navi.com/channel01/)によると、エントリー費用は一組あたり 税込700,000円 (※2022年現在) となっているようです。
このエントリー費用には
・各関係機関への申請代行、事前連絡、経過報告
・船2隻 (選手サポートメイン船 と 先導偵察船) の手配
・オブザーバーの派遣
が含まれています。
同資料にキャンセルに伴う返金ポリシーが記載されていますが、特に気に留めておきたい点は2つです。
・「出港できなかった場合は30%返金」 → もし海況に恵まれずスタートできなくても返金額は30%のみになります。70%は事前準備や人件費など、すでに発生している費用に充てられると思われます。
・「スタート決定後は返金なし」 → 前日にスタートが決まった時点で出港とみなされます。もし思いがけない天候悪化やサメ等の危険生物が発生して中止となった場合でも返金はされません。
エントリー費用は決して安い金額ではありませんので、これらの返金ポリシーに納得してからエントリーすべきだと思います。
また、エントリー費用に含まれないものとして
・現地までの交通費
・宿泊費
・レンタカー代 (宿泊地~港 間の移動や荷物運搬に必要)
などが挙げられます。
その他にもウェットスーツや食事代、船上の防寒対策など、もろもろの費用がかかります。
ここまで、津軽海峡縦断泳の概要についてご説明しました。
次のエントリでは、申し込み~事前準備についてご説明します。